健さん(仮名、80歳、要介護3、統合失調症)
ご夫婦二人暮らし。
健さんが統合失調症を発症してからすでに10年。
昨年までは自分で歩く事が出来、食事も自分で台所まで
行って食べる事が出来た。
現在は布団の上での生活で、排泄全介助。
発語はほとんどなく、意思疎通困難。
こちらの言っている事はなんとなくわかっている。
そんな健さんの所に、私たちは月2回、身体介護で訪問しています。
髭剃りも月2回で、訪問のたびにぼうぼう。
健さんの奥様はとても気さくな方。農業を営み、自宅の外にある作業
小屋が奥様の職場。
だから、健さんを家の中においてお仕事をしています。
週末の夕方、健さんのケアマネさんから電話が来ました。
「健さんの奥さんが、毎年の1泊旅行に行くって連絡が来たんですけど
ヘルパーさん、急遽訪問をお願いできませんか。」
「今の健さんをおいていくんですか。」
「そうなんですよ。奥さん、一人でおいていくつもりだったみたいだから
それはケアマネとしてはヘルパーさんに訪問してもらいたいって言いました。
そしたら、そうしてほしいって言ったから、ちょっと安心しましたよ。」
「奥様の年に1回のリフレッシュですからね。わかりました。私訪問しましょう。」
「よかった~。細かい事は奥さんと直接やりとりしてくれますか。」
「わかりました。了解です。」
最初話を聞いたときは、全ヘルパーが、えって思いました。
でもぎりぎりのところではありますが、何とか奥様を旅行にだしてあげたいと
思いました。
奥様に電話をすると、
「食べるものや飲み物は冷蔵庫に入れていくから、適当に食べさせてくれれば
それでいいです。これで安心して行ってこれます。」
って、いたって普通の会話でした。心の底では心配なんだとは思いますが、
そんなことは一切言いませんでした。
そういうあっけらかんとした奥様なんです。
それでいいと思います。
毎日介護介護と苦しんでいるより、自分のための時間を作ることは
決して悪い事ではないと思います。だってたった年に1回ですよ。
普段から奥様とは信頼関係もできており、何も心配しないで旅行に
行っていただける事って、事業所にとってもありがたい事だと思い
ます。それだけ信頼していただけて。
本日、夕方訪問してきました。
健さんはいつものように布団の上にいました。
排泄介助し、水分補給。食べ物を進めると
「いらね~」
でも、いなりずしを口に運んだら1口ぱくり。
ヨーグルトやコーヒーを時間をかけて食べていただき、なんとか
これでいいかな。
また明日の午前に訪問します。
奥様の帰宅は明日の夕方。
無事にお帰りになり、健さんにも変わりがなければ、
お役目終了です。