父は以前にも書きましたが、歩行や排泄等のリハビリと並行して言語のリハビリも
頑張っていました。
一体どんなリハビリが行われていたんでしょうか。父に聞きました。
・口の運動
・舌の運動
・教科書(言語リハビリ用の教科書)を声を出して読む
これを1回30分~40分行っていたそうです。
熟語を使って文章を作るという事もやったそうで、「対決」を使って文章を作りましょ
うというのがあったそうです。
そこで父は、たまたま相撲をやっていたので
「千秋楽は横綱同士の対決が見られます」と答えたそうです。相撲をやっていなかった
ら、なかなか答えられなかったかもしれないと言っていました。
言語のリハビリと言いながらも、やはり頭の回転を速めるリハビリも含まれているよう
に感じます。
ある時は和歌や俳句を作った事もあったそうです。和歌や俳句なんてやったことのない
人にとっては言語のリハビリどころか、和歌を作る事すらできませんよね。
父は昔の仕事のお客さんに東大卒で、歌会始めの選者だった加藤将之さんという人が
作った和歌を思い出し、それを披露したと話してくれました。
「しあわせの鳥かは知らず、家内に飛び込む事のある日なり」
鳥とはただの鳥ではなく、瑞兆(めでたいことが起こる前ぶれ)とか瑞鳥(めでたい
しるしとされる鳥)の事をさし、障子に飛ぶ鳥の影がうつる幸せという言い伝えが
あり、いわゆる今で言う都市伝説があったと父が説明してくれました。
非常に高尚で私には難しすぎる、奥の深い和歌で理解できませんでしたが、素晴らしい
和歌であることは事実です。それを思い出した父の頭は、十分に働いていると思いまし
た。
この和歌の作者である加藤将之さんの書いた本は、今も実家にあります。
加藤さんは東大出身で、文部省の視学官をやった人で、満州で終戦を迎えて戻ってきて
から教科書会社に勤め、教科書会社を辞めてから、和歌を作る集まりを主催してその
歌の選者や編集をやっていた人だったとのこと。むかしその加藤さんが隣に住んでいた
そうで、和歌の集まりを主催したころには高井戸に引っ越ししていて、仕事で訪れた
時に話をしたら、実際に鳥が飛び込んできたことがあったと話してくれたとの事でした
た。
言語のリハビリの話を聞いたつもりが、もっといい話をきかせてもらい、父の教養の
深さに感動しました。